Ca Leaching from Concrete

研究の背景

カルシウム溶脱とはコンクリート中のカルシウム水和物が供用環境に存在する水に溶解して組織が粗となる現象である.カルシウム溶脱による劣化速度は極めて遅い.このため,劣化速度が大きい劣化現象,例えば,塩害やアルカリ骨材反応などと比較して,従来重要視されることはなかった. 

しかしながら,数百年やそれ以上のコンクリート構造物の耐久性を評価するとき,この現象は重要となる.例えば,ダムや防波堤など,100年以上水中(海中)にある構造物において,カルシウム溶脱による劣化が無視できない可能性がある.また,有害物質を含有する焼却灰等の固化処理材料としてのセメント系材料(コンクリート)の適用を想定した場合,環境保全の観点から長期のセメント系材料の安定性を評価・予測する必要がある.

さらに近年,原子力発電所,およびそれに関連する施設の供用限界年数が近づいており,これら原子力発電関連施設の閉鎖・解体によって生ずる大量の中・高レベル放射性廃棄物を処分する施設の建設が必要になる.中・高レベル放射性廃棄物に付着している放射性元素の半減期は100年オーダーである.このため,放射性廃棄物処分施設にも100年以上の耐用年数が求められる.

現在これらの処分施設は,周辺環境に与える影響を最小化し,また,中性化や風化などによるコンクリートの早期劣化を避ける目的で地中に埋設することが検討されている.その結果,地下水とコンクリートが接触することにより生じる溶脱劣化に関して,100年オーダーの耐久性を評価・予測する必要がある.

しかしながら,カルシウム溶脱に伴うコンクリートの長期耐久性に関する研究は緒についたばかりであり,未解明な部分が多い.これはカルシウム溶脱による劣化が長期間を経た後に顕在化するため,試験により劣化を評価することが極めて困難なためである.従って,促進倍率が明確なカルシウム溶脱の促進試験の確立は,カルシウム溶脱による劣化を研究する上で極めて有用である.

さらに近年,コンクリートからのカルシウム溶脱の数値解析的予測手法に関する研究論文1-25) ? 1-29)が報告されている.数値解析による劣化予測手法は,その信頼性が高い場合,劣化速度が極めて遅いカルシウム溶脱を予測する上で非常に有効なツールである.これらの研究では拡散理論でカルシウム溶脱による劣化を予測できることを示している.しかしながら塩害の項でも述べたように,これらの研究で用いられている拡散理論には種々の近似が存在している.またコンクリート中の細孔溶液中にはカルシウムイオン以外にも複数のイオンが存在するにもかかわらず,これらの共存イオンがイオン移動に与える影響およびカルシウム水和物の分解に与える影響を考慮した研究事例は少ない.つまり,既存の数値解析的劣化予測手法の信頼性をさらに向上させるために,さらに詳細な検討が必要であると考えられる.

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